三叉神経痛とは、どんな病気?

三叉神経痛(疼痛性チック)は、第5脳神経(三叉神経)の機能不全により顔面に激しい痛みが生じる病気です。

三叉神経は、顔面の感覚情報を脳に伝え、食べ物をかむときに使う筋肉を制御しています。

 •通常は原因を特定することができませんが、異常な位置にある動脈が三叉神経を圧迫するのが原因である場合があります。

 •顔の下半分に、刺すような短く激しい痛みが、繰り返し起こります(この痛みはしばしば稲妻に例えられます)。

 •診断は、特徴的な痛みに基づいて行われます。

 •特定の抗けいれん薬や抗うつ薬、バクロフェン、あるいは局所麻酔剤により痛みが軽減されることがありますが、手術が必要となることもあります。

 三叉神経痛は、どの年齢層の成人にも起こりえますが、通常は中高年に発症し、女性に多く生じます。

ほとんどの症例で原因は不明です。

よく知られている原因は動脈の位置の異常で、三叉神経を脳の出口付近で圧迫します。

若い人に起こる三叉神経痛には、多発性硬化症による神経の損傷が原因のものがあります。

三叉神経痛はまれに帯状疱疹(ウイルス感染症の一種)による神経の損傷や、腫瘍による神経の圧迫により起こることもあります。

 症状 痛みは特に理由なく起こることもありますが、多くは、顔・唇・舌の特定の場所(トリガーポイント)に触れたときや、

歯磨きまたは食べ物をかむなどの動作がきっかけとなって起こります。

稲妻に例えられる、刺すような短く激しい痛みが、繰り返し起こります。

顔の下半分のどこにでも起こりますが、最も多いのは鼻の横のほほとあごです。

普通は、顔の片側だけに症状が出ます。痛みは通常、数秒間ですが、最大で2分間ほど続くこともあります。

1日に100回も発作が起きて、痛みのために何もできなくなることもあります。

痛みが強くて顔をしかめることが多いため、疼痛性チックと呼ばれることもあります。

一般にこの病気は自然に治まりますが、長期間痛みが起こらない休止期間の後に、しばしば再発します。

 診断 三叉神経痛を特定できる特別な検査はありませんが、痛みが特徴的なため、医師には容易に診断がつきます。

しかし、顔面に痛みを起こす別の原因である、あご、歯、副鼻腔の病気や三叉神経障害(腫瘍、脳卒中、動脈瘤、多発性硬化症によって三叉神経が圧迫されて起こる)などとの鑑別が必要です。

三叉神経障害では顔面の各部で感覚が失われ筋力低下が起きますが、

三叉神経痛ではそのような症状は起きないので、三叉神経障害と三叉神経痛を鑑別できます。

 治療 痛みの持続時間が短く、かつ再発するため、通常、典型的な鎮痛薬は有用ではありませんが、

一部の薬剤、特に抗けいれん薬(神経膜を安定させる作用がある)が役立つことがあります。

通常は、抗けいれん薬のカルバマゼピンを最初に試します。カルバマゼピンが有効でない場合や、

耐えがたい副作用が起きた場合は、同じく抗けいれん薬のガバペンチンまたはフェニトインが処方されることがあります。

これらの代わりに、バクロフェン(筋肉のけいれんを軽減する薬剤)や三環系抗うつ薬(アミトリプチリンなど−気分障害: うつ病治療薬表を参照)が使用されることもあります。

神経の中または周囲に局所麻酔剤を注射すると(神経ブロック)、一時的に痛みが軽減されます。

 重度の痛みが続く場合は、手術が行われることがあります。

動脈の位置の異常が原因である場合は、神経と動脈を分離し両者の間に小さなスポンジを埋めこむ手術が行われます。

通常はこの手術(血管減圧術)により数年以上にわたって痛みを抑えることができます。

原因が腫瘍であれば、腫瘍を切除する手術が行われます。

薬剤で痛みが緩和せず、手術のリスクが高すぎる場合は、他の治療法が有用かどうかを判定するための検査を行います。

この検査では、神経組織にアルコールを注入して、一時的に機能を遮断します。

アルコールの注入で痛みが緩和する場合は、その神経を破壊することで痛みを軽減できる可能性があり、ときに永久的な効果が得られる場合もあります。

神経の破壊には、手術による切断、高周波プローブ(熱を利用します)、ガンマナイフ(放射線を利用します)などの方法が用いられ、

グリセロールなどの薬剤を注入して神経を破壊することもあります。

ただし、これらの治療法はあくまで最後の手段です。

しばしば、痛みの緩和が得られるのは一時的で(数カ月から2〜3年ほど)、その後はより重度の痛みが再発します。

 メルクマニュアル医学百科より